今も昔も「黒板-PowerPoint論争」

昨日に続いて、数学の話から。

いろいろな大学にFD講演・研修にいくのですが、その際に”自分の授業で困っていること、工夫していることについてワークシートに書いてもらい、グループ議論をする”というワークを行うことがあります。いろいろな話題が出てくるのですが、特に理系の先生がおられる場合に出てくるのが「黒板-PowerPoint論争」です。これは、私が院生のときから話題になっていたテーマで、私の知る限り、20年来のテーマだと言えます。

先日、私の大学院の先輩である角さん@京大が、Facebookにこのようなことを書かれていました。

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数学と生物学の授業の仕方の違いなどのお話になりました。一番の違いは、数学の授業は、パワーポイント全盛の大学授業のなかで、唯一、板書で通すものであることです。
 数学の授業で板書を使う理由についてですが、純粋数学の数式は、パワーポイントで流されると、数学者でも全く理解できないことがあるからです(笑)。数学については、一行一行、板書するのが一番いい、と多くの数学者が思っています。
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なるほどなぁ、と思いました。たしかに生物学であれば(一口には言えませんが)、たしかにPowerPointの方が向いてるだろうな、と。画像も見せたいですしね。

PowerPointが普及しはじめた頃、PowerPointの方が便利だ、みたいな風潮もたしかにありました。PowerPointの方が情報量も多いですし、画像や映像なども使えて便利ではあります。実際、私もほとんどの授業でPowerPointを使っています。そうすれば、前年の授業資料を使えますし、なにかあれば他の授業の資料もさらっと見せることができます。

ただ、私も数学の授業については、黒板を使っています。数式を展開して説明する場合には、黒板のほうがテンポがいいからです(しかも、ホワイトボードも基本的にいやなので、黒板の教室にしてもらっています)。

工学系の先生も、黒板とPowerPointを使い分けている先生、PowerPointにした場合は学生がノートをとらなくなるので、穴埋め形式にしている先生、などいろいろな工夫をされています。

黒板やPowerPointなどの教具については、授業目標に応じて適切に選択する、ことが求められます。プリントのほうがいい場合もあるでしょう。数学の場合は、数式の展開を理解する速度と板書の速度が一致することで、学生が理解しやすい、ということになると思います。PowerPointで一気に見せたところで、理解に時間がかかりますしね(アニメーションを使うという手もありますが)。

昨年11月の教育メディア学会のシンポジウムで、宇治橋さんが視聴覚教育の歴史を振り返っていましたが、新しい教具をどのように使っていくか、は、いつの時代も課題なんだろうな、と思いますね。

また、数式を展開している際にどこまで解説するか、というのも、学生のレベルによって変わってきます。昔、田中毎実先生(元京大高等教育センター)も言ってましたが、「京大ならひたすら板書を続けてもいい(分からないのがいやなので、自分でわかろうと努力する)が、別の大学でそのやり方だと、学生から”先生が解説しない”とクレームがくる」と言った話をされていました。学生がどのような特性を持っているか、にあわせて教え方も変えていかないといけない、ということだと思います。

例えば、中高の数学だと、生徒の学力に応じて、板書のテンポや文字の大きさを変える、ということも必要になってきますね。板書でも一気に書いてしまうと理解しようとせずに移す作業だけで終わってしまう、ということになります。

こういった話は、インストラクショナルデザインで説明されている内容なので、ぜひみなさん、インストラクショナルデザインを学んでほしいな、と思います。

  

大学授業改善とインストラクショナルデザイン (教育工学選書II)

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授業設計マニュアルVer.2: 教師のためのインストラクショナルデザイン

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